足の内側から土踏まず、そしてかかとにかけて痛みを感じたとき、多くの方がまず疑うのが「足底腱膜炎」でしょう。実際に整形外科の現場でも、この疾患で来院される方は非常に多く、理学療法士としてもおなじみの疾患です。
しかし、いざ評価を進めていくと、「これは本当に足底腱膜炎か?」と疑問に感じることがあります。特に、働きながら足の痛みを抱えている方に多いのが、「後脛骨筋炎」です。
今回はこの「足底腱膜炎と間違えられやすい後脛骨筋炎」について、病態・特徴・違い・セルフケア方法を含めて詳しく解説します。
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- 後脛骨筋炎とは?
● 後脛骨筋の解剖と役割
後脛骨筋(こうけいこつきん)は、ふくらはぎの深層にあるインナーマッスルで、足の内側アーチを支える重要な筋肉です。この筋肉は下腿骨の後面から起こり、足関節の内くるぶしの後ろを通って、舟状骨を含む足根骨に付着します。
「主な役割は次の3つ」
• 足部内側アーチの維持(アーチサポート)
• 足の内返し(回内・回外のコントロール)
• 歩行時の足部安定化
● 病態と原因
後脛骨筋筋炎とは、この筋肉の過使用や微細損傷によって炎症が生じ、痛みや機能低下を起こす状態です。
「原因となる動作や状況」
• 長時間の立ち仕事や歩行
• 靴のサポート不足
• 足部アライメント不良(偏平足など)
• 急な運動再開や使いすぎ
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- 足底腱膜炎との違い(詳細解説)
● 痛みの出る場所の違い
足底腱膜炎では、かかとの前方から土踏まずにかけて「足裏の真下」が痛くなるのに対し、後脛骨筋炎では「内くるぶしの後ろ〜土踏まずの内側」にかけての筋肉のラインに沿った痛みが出ます。
● 発症・悪化のタイミング
足底腱膜炎は「朝の一歩目でズキッとする」のが特徴的です。
一方、後脛骨筋炎は夕方にかけての疲労性の痛みが目立ち、「仕事の終わり頃にズーンとだるい」といった訴えが多く聞かれます。
● 痛みの性質の違い
足底腱膜炎は、「腱膜の付着部(かかと)に圧痛」があり、比較的浅い場所の痛みです。
後脛骨筋炎は、深層にある筋のため「重だるく、深い痛み」があり、筋肉痛のような感じに近いのが特徴です。
● 誘発動作の違い
足底腱膜炎では「つま先立ち」や「歩きはじめ」での痛みが多いですが、
後脛骨筋炎では、「足を内返しにする動き」「階段を下りる」などの後脛骨筋が収縮・伸張される動作で痛みが誘発されます。
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- 後脛骨筋炎の評価ポイント
● 視診・触診
• 内くるぶしの後ろあたりに圧痛
• 土踏まずのやや内側に腫れ・熱感
• 偏平足傾向あり
● 機能テスト
• 片足つま先立ちで痛み再現(陽性)
• 抵抗をかけて内返しを行うと痛み増強
● 歩行観察
• 内側アーチの低下
• 回内が強く出ている(いわゆる「べた足」)
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- 働く人に多い理由とは?
「仕事中は以下のような要因で後脛骨筋に負担がかかりやすくなります。」
• 立ちっぱなし・歩きっぱなしで筋持久力が限界を超える
• 安全靴やパンプスなど柔軟性のない靴による過負荷
• 疲労蓄積でアーチの支持機能が低下
その結果、アーチの保持役である後脛骨筋が頑張りすぎて炎症を起こします。つまり、「足底腱膜炎かな?と思って湿布を貼っても一向に改善しない」というケースは、実はこの後脛骨筋炎かもしれないのです。
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- セルフケア方法(自宅でできる対策)
● 1. アイシングと安静
痛みが強い時期は無理に歩いたりストレッチせず、アイシングで炎症を抑えることが大事。1回15分を1日数回行います。
● 2. テーピング・サポーター
内側縦アーチをサポートするようにアーチサポーターやテーピングを使うと、後脛骨筋の負担を軽減できます。
● 3. ストレッチとマッサージ
• ふくらはぎ(ヒラメ筋・腓腹筋)のストレッチ
• 足底と内果周囲の軽いマッサージ
• 後脛骨筋自体を無理に伸ばすより、関連筋のケアを優先
● 4. 正しい靴選び
• アーチサポートがあるインソール
• クッション性の高いソール
• 足にしっかりフィットするスニーカータイプ
● 5. 足部アーチトレーニング
• タオルギャザー(足の指でタオルをたぐり寄せる)
• 足裏のグリッピング力を鍛えることで、後脛骨筋の補助筋を活性化
● 6. 青竹踏み(あおだけふみ)
青竹踏みは、土踏まずのアーチ形成に効果的なセルフケアです。
「効果」
• 足底筋群や後脛骨筋の筋緊張をほぐす
• 血行促進による疲労回復効果
• 足裏の固有感覚刺激により足部の機能改善
• 立位時のアーチ保持力のトレーニング
「方法」
• 青竹や類似のローラー製品を使い、1日5分〜10分を目安に踏み踏み
• 最初は靴下を履いて軽めに行い、慣れてきたら素足でOK
• 土踏まずの内側ラインを意識して刺激
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- 整形外科受診のすすめ
セルフケアで改善しない場合は、整形外科での診断・治療が必要です。足底腱膜炎と後脛骨筋炎では治療方針も異なるため、正確な診断がカギになります。とくに偏平足傾向が強い場合や、痛みが長引く場合は、理学療法士による徒手評価や運動療法が有効です。
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まとめ
足の痛みの原因は一つではありません。よく見かける足底腱膜炎と似た症状でも、後脛骨筋炎であるケースは意外と多く、評価とアプローチを誤ると慢性化することもあります。
「なんだか足の内側が重だるい」「アーチのあたりが痛む」「湿布しても治らない」…そんな時は、後脛骨筋炎を疑ってみてください。
正しい知識とセルフケアで、痛みのない一歩を踏み出しましょう。
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※この記事は理学療法士としての臨床経験に基づいた情報です。医療的判断が必要な場合は、必ず専門医にご相談ください。